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大島の丘の上から波浮港を見下ろす

アンコ椿は恋の花 Anko-tsubaki wa Koi no Hana
作詞:星野哲郎、作曲:市川昭介、歌:都はるみ。1964(昭和39)年、この年デビューした、都はるみの3曲目のシングルとして発表され、ミリオンセラーを記録。この曲で都はるみは第6回レコード大賞の新人賞を受賞した。翌1965(昭和40)年、都はるみは『涙の連絡線』が2回目のミリオンセラーとなり、NHK紅白歌合戦に初出場。以来、1984(昭和59)年まで20回連続で出場するが一時引退。1989(平成元)年に復帰した際、紅白のトリで歌ったのが、『アンコ椿は恋の花』であった。

ツバキの花咲き乱れる島
 暦の上ではすでに早春とは言え、まだ肌寒さを感じるこの季節。山野には花の色もなく、冬枯れの野には未だ春の訪れは遠く感じられる。そんななか、鮮やかに色をつけるツバキの花は、梅から桜に続く春の花を待つ身には、ひときわ鮮やかに見える。
 東京都心から南へおよそ120km、伊豆大島は、伊豆諸島の最北に位置する。伊豆諸島のなかで最も大きなこの島には、およそ9000人の人々が暮らしている。黒潮の影響もあってか、年間の平均気温約16℃という暖かな島は、この時期、島の至る所でツバキの花が咲き誇る。その数、およそ300万本と言われ、3月下旬まで、島内は「伊豆大島椿まつり」として、多くの旅人たちで賑わいを見せる。野山を彩るツバキの花々は、まさに伊豆大島の早春の風物詩だ。
 東京都の竹芝桟橋からジェット船でおよそ2時間。港から島に足を踏み入れれば、そこはもう春の陽気だ。海から吹く潮風が頬に暖かく、そこかしこで咲くツバキの花をやさしく揺らしている。島内には古くから人々に「御神火様」としてあがめられてきた標高764mの三原山をはじめ、世界最大級の椿園や資料館、椿まつりの会場ともなる都立大島公園など、多くの見どころが点在する。なかでも島の最南端にある波浮港は、ぜひ訪れてみたい場所だ。かつては同じ伊豆諸島の利島との間を結ぶ連絡線の港であったが、現在は連絡船や定期船の就航はなく、静かな漁港となっている。

どこか明るい島娘の悲恋の歌
 大島のツバキ、そして波浮港を歌った曲といえば、やはり『アンコ椿は恋の花』である。
 「三日おくれの便りをのせて/船が行く行く波浮港/いくら好きでもあなたは遠い/波の彼方へ行ったきり/あんこ便りは/あんこ便りは/片便り」
 この曲が発表されたのは、1964(昭和39)年。この年デビューした都はるみの3曲目のシングルとして、ミリオンセラーとなった。以来、43年という月日が流れた今も、歌手・都はるみを代表する名曲であり、また伊豆大島を代表する歌でもある。昭和歌謡を代表する作詞家・星野哲郎の書いたこの歌は、島の娘(アンコ)が北の都へ行ってしまった恋人を思ってすすり泣く惜別の歌だ。歌詞では、返事の来ないだろう恋文を遠い恋人にしたためる16歳の娘は、北にたなびく三原山の煙を見て、すすり泣く。しかし曲のメロディからも、また都はるみ独特の、こぶしの利いた歌声からも、決して情念のこもったような悲しみは感じられない。むしろ、どこかからっとした、明るささえ感じさせる。
 『アンコ椿は恋の花』がヒットした1964年といえば、東京オリンピック開催の年である。国内では「黒字倒産」が流行語となり株式市場も低迷をしていたものの、長い視点でみれば、日本は高度経済成長のまっただなかであった。オリンピックでは、東洋の魔女たちが大活躍。「夢の超特急」と呼ばれた東海道新幹線が開通し、東京都内の車は100万台を突破、マイカー時代の到来と言われた。そんな時代の明るい空気と島の風土が、島娘の悲恋の歌をも、どこか明るいフレーズにせずにはいられなかったのかもしれない。

陽射し輝く港の風土
 波浮港の北に位置する高台には、『アンコ椿は恋の花』の歌詞碑がある。ここから視線を南に移せば、港を一望することができる。眼下に広がる港は、かつては火山の火口湖であったが、津波で海とつながり、その後、崖を切り崩して港になったという。そのためか、水面は波穏やかで、湖水を思わせる。静かな港と水平線に続く青空、陽射しに輝く海と白い雲は、どこまでも明るい。
 「風にひらひらかすりの裾が/舞えばはずかし十六の/長い黒髪ぷっつり切って/かえるカモメにたくしたや/あんこつぼみは/あんこつぼみは/恋の花」
 年若い島娘の失恋さえも、希望を感じさせる明るさで彩ってしまう南の島の風土は、あれから40年以上の時が流れた平成の今も、何ひとつ変わらずに、この島を訪れる旅人を迎え入れてくれるだろう。


 
波浮港に近づくにつれ、大島の山並がせまる
 
大島に咲く「恋の花」ヤブツバキ
 
「アンコ椿は恋の花」の歌碑
 
三原山の火口
 
JASRAC 出0701601-701
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