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「水底の土砂をさらうこと」。浚渫を端的に説明すればこうなり、
「浚」「渫」とも「さらう」と読む※。
泊地や航路、水中構造物の建設など港湾土木工事において、
浚渫は欠かすことができない重要な役割を担い国土づくりに貢献してきた。
今回から始まる新シリーズ「港湾土木工法の基礎知識」の第1回として
港湾土木の基幹的な仕事の1つである「浚渫」を取り上げる。
21世紀に入ったいま、浚渫に新たな期待が高まってきた。
※さら-う【浚う・渫う】[他五]
 川・井戸などの底にたまった土砂を掘りあげて除く。また、容器の中のものをすっかり取り去る。(「広辞苑」より)

「さらう」仕事は土質の硬さで工法が決まる

  水底の土砂をさらうとは、掘り下げて深くすることを意味する。さらった土砂は他の場所へ移動させ埋立などに有効利用する。浚渫と埋立は、海洋・港湾土木分野で一連の工事として位置づけられるケースが多い。港湾工事の原点ともいえる工法だ。
 ひとことで浚渫といっても対象となる工事や用途はさまざまだ。新しく泊地や航路をつくるための浚渫があれば、埋立のための土砂の採取、環境対策のための汚泥除去浚渫などがある。新規浚渫だけではなく拡幅・増深のための改良浚渫、水深を維持するための維持浚渫、さらに防波堤など水中構造物をつくる際の基礎の床掘も浚渫の重要な仕事だ。
 ここでは工法の観点から分類し技術的な視点から見てみる。
 浚渫に際しては、どんな種類の土砂を掘り、その土砂をどのように処理するかを決定した上で使用する船が選ばれる。大きく「ポンプ船浚渫工法」と「グラブ船浚渫工法」に大別でき、土質や浚渫規模、水深、工期などの施工条件をもとに選ばれる。なかでも最も重要なのが作業能率に大きく影響する土質だ。比較的やわらかい土質だとポンプ浚渫船、グラブ浚渫船のいずれも施工できるが、それより硬くなると砕岩を併用するか、大型の作業船が必要になる。硬い土質(N値30〜50)でも、大馬力のポンプ浚渫船や硬土盤用バケットを装備した大型グラブ船の開発で能率良く施工できるようになってきた。
 環境対策のための汚泥浚渫は、昭和40年代後半に活発な技術開発が繰り広げられた。ところがどうしても余分な水が混入し含泥率の低下や余水処理量の増加といった課題を抱えていた。そこで開発されたのが高濃度浚渫(船)だ。浚渫時に底泥の攪拌をせず余分な水も混入しない掘削機構をもつ。従来の水力搬送ではなく、圧縮空気の膨張エネルギーを利用した空気圧送と併用した工法が開発され、浚渫埋立工事は飛躍的に効率化していくことになる。


大規模浚渫に適したポンプ浚渫工法

 代表的な工法の1つであるポンプ浚渫工法とは、ポンプ浚渫船により水底の土砂を吸い上げ、これを管路で搬送する工法を呼ぶ。浚渫土を利用した埋立造成で最も多く採用され、とくに大規模な港湾工事で威力を発揮する。
 ポンプ浚渫船は、浚渫場所の深度によって上下するラダーを船の先端にもち、ここに土砂を吸い上げる吸入口、さらにその前に水底を掘削するカッターを取り付けた「カッター付きポンプ浚渫船」が最も一般的だ。ラダーを降ろしたあと、カッターをモーターで回転させながら土砂を掘削する。こうして切り崩した土砂を水と一緒にポンプで吸い込み、排砂管を通じて埋立地や処分地に搬送する。
 さらにカッターをもたず水ジェットで土砂を攪拌して吸い上げるカッターレス方式、軟泥の浚渫向けに改良された特殊ポンプ方式のものもある。
 ポンプ浚渫船は、自分で航行するためのスクリューをもたない非自航式が大半だが、自航式という意味では、推進装置をもつドラグサクション浚渫船もある。近年では世界最大級の規模と浚渫能力をもつ最新鋭のドラグサクション浚渫船も建造され、大型の浚渫埋立工事で活躍をみせる。水底に接地させたドラグヘッドを通じて、浚渫ポンプで土砂と水を吸い込み、船内に土砂を積み込んで運搬する浚渫船のことで、ポンプ浚渫の1つに位置づけられる。
 一方、非自航式のポンプ浚渫船の場合、自ら動けないため、船の後部にあるスパッドやアンカーワイヤーで船体を保持し、ここを支点にして左右に船体をスイングさせながら浚渫する。また、浚渫土砂を搬送する方式で分けると、排砂管を使った送管方式が一般的だが、長距離搬送する場合には、別の運搬船に積み変えて搬送する舷側積込式がある。
 最近のわが国のポンプ浚渫船は、馬力が10,000馬力以上、1時間当たりの浚渫能力は2,000m、搬送距離は7Kmにも及ぶ。ラダーポンプの搭載を始め、性能も次第に向上してきた。

21世紀は環境保全型の浚渫工法

 現在の浚渫技術は、沖合・大深度の水域に対応した大水深・大容量浚渫技術の開発、作業船の耐波性の向上、GPSを利用した船位計測制御システムなどに重点が置かれている。さらに開発の大きなテーマになっているのが、「環境保全」だ。環境保全型の浚渫技術を象徴する工法の1つが高濃度浚渫工法で、自然堆積泥や栄養塩を含んだ底泥を効率よく浚渫できる。
 汚泥浚渫工法にはポンプ系とグラブ系があり、ポンプによる水流を利用し、ヘドロを吸引して管路で処分地まで搬送するのがポンプ系の基本的な原理である。またグラブ系は密閉型のグラブを使用し、汚濁拡散が少なく、高含泥率で効率的な浚渫が可能であることが大きな特長だ。
 高濃度浚渫工法は、水質汚濁による環境への影響という一面をもつ浚渫の難点を克服する工法であり、含泥率50%以上の高濃度で浚渫可能だ。こうした高い濃度での浚渫を可能にするため、とくに浚渫部ではさまざまなハイテク技術が導入されている。
 近年、環境汚染の実態の解明に伴って、環境に最も悪影響を及ぼすのは堆積汚泥の表層部であることなどがわかってきた。これを受けて、表層部の堆積汚泥を二次汚染を起こさず浚渫できる施工・管理技術が開発されてきた。
 高濃度浚渫工法の代表的なタイプには、負圧吸泥式、気密バケットホイール式、回転バケット式、スクレープローター式、ロータリーシェーバー式、サンドポンプ式などがある。
 わが国の浚渫工事は、量的には昭和40年代をピークに減少の傾向をみせる。だが海外での大型埋立工事や国内での大型海上空港の建設などを可能にする技術の1つとしてその役割は揺るぎない。新規だけでなく現在の港湾機能を保つ維持浚渫も、人間の営みに絶対に欠かせないものだ。こうした役割の上に、環境保全という視点が加わった今日、浚渫技術には新しい可能性が秘められている。


■ポンプ浚渫船■
■ドラグサクション浚渫船■ ■高濃度浚渫船■

大型浚渫兼油回収船「白山」
(写真:北陸地方整備局新潟港湾・空港整備事務所)

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