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海辺を人々の身近な存在にしようと、親水性をもたせた海岸施設づくりが進んでいる。
「人工海浜」は、そんな海岸施設を代表する1つ。
人々と海がふれあう場としてなくてはならない海岸施設となってきた。
人工海浜は、確かに人間がつくったものであるが、環境や景観との共生をめざした近年の試みは、
自然の一部といっていいほど。そこにはもはや人工=硬いというイメージはない。

楽しむ空間へ全国247カ所で供用

 海岸施設には、津波などに対する防災面を重視したものと、防災面だけでなくレジャーやスポーツ空間としての役割を兼ねたものに大別され、目的や設置する場所の環境に対応してさまざまな構造・タイプがある。

 人工海浜は、防災とレジャー空間などを兼ねた海岸施設の1つ。文字通り人工的に砂礫や砂を投入して造成(養浜)した海浜をさす。国土交通省によると、全国の地区海岸数は5,096カ所あり、うち供用中の人工海浜をもつ地区海岸は247カ所ある(2002年5月現在)。

 人工海浜がつくられる背景とその後の経緯は、わが国の海岸整備の変遷と密接に関わっている。

 海岸整備のもとになる海岸法が制定されたのは昭和31年。それ以来、直立堤と消波工に代表される海岸線防護方式が数多く採用されてきた。防災面などに大きな成果を上げたが、その一方で、浸食防止効果が完全ではないため、前浜の消失や越波量の増大といった点も指摘されてきた。

 そこで登場したのが面的防護方式である。離岸堤、人工リーフ、人工海浜、緩傾斜堤など複数の施設をつくり、防災効果を高めようというものだ。これにより前浜を回復した海岸の環境を創出し、堤防の高さを低くして海浜へのアクセスもできるようになった。

 人工海浜は、こうした海岸施設整備手法の変化とともに生まれ、近年の環境や景観に対する意識の高まり、スポーツ・レクリエーション需要の増大を追い風に、全国的な動きとして整備が進んでいる。

 最近の海岸整備計画は、従来の漁業・農業・工業利用に加えて、新たな利用の可能性を指摘しながら、「海洋性レクリエーション・スポーツ空間としての砂浜や磯場」「多様に楽しめる海岸」の推進を掲げた。

 人工海浜は、そのための重要な役割を担うと期待されている。



横浜市金沢区の『海の公園』
(写真:財団法人 横浜市臨海環境保全事業団)
葛西臨海公園の人工海浜(写真:東京都港湾局)
養浜の浸食防止へ2つの方式

 人工海浜は、造成された養浜にある砂礫や砂の浸食対策が技術的に重要なテーマとなり、大きく2つの方式に分類することができる。1つは、養浜材料(砂礫や砂)の浸食や流失を防ぐ関連施設を設置することで、継続的に砂礫や砂を供給しなくても安定状態を保つ方式、もう1つは、継続的に砂礫や砂を供給することで動的な安定状態を保つ方式である。

 主な関連施設には次のようなものがある。

1)離岸堤
 汀線(渚)から離れた沖合の海面に、汀線とほぼ平行して設けられる構造物。背後に砂を貯えて浸食防止や海浜の造成を図るほか、消波や波高減衰機能もある。

2)潜堤(人工リーフ)
 珊瑚礁のような浅瀬を人工的に海中部に造成すると同時にその部分で波を砕き波浪を低減し、海岸を浸食などから守る構造物。離岸堤とほぼ同じ形状と機能をもちながら、海中にあるので景観を損なうこともない。

3)突堤
 海岸から細長く突き出して設けられる構造物。主として砂が失われる沿岸漂砂が激しい海岸で、これを抑制するために設置される。

 人工海浜を整備するにあたっては、技術的な基準が定められている。うち離岸堤・潜堤・突堤は、防波堤と同じような手順で設計、施工される。構造タイプも同様である。ただ、これらの構造物によって砂の動きが止められ海岸が浸食されることがあるため、砂の動きなどを十分に調査した上での設計が不可欠である。

 一方、継続的な砂礫の補給方法には、サンドバイパス工法と呼ばれる技術がある。構造物により漂砂の連続性が断たれた場合に、漂砂の上手側に堆積した土砂を下手側に輸送して海岸を安定させる技術だ。運搬方法には陸上運搬、浚渫船などによる海上運搬、パイプラインによるものなどがある。


■人工海浜施工例
■潜堤の施工例
より確かな安全対策へ技術的な指針

 浸食対策と並ぶ技術的なテーマは、安全対策だ。人工海浜は、実際にその場所を人々が利用するだけに、安全対策は最優先されなければならない。

 国土交通省は昨年6月、「人工海浜の安全確保のため留意すべき技術的事項について」をまとめ、全国の海岸管理者に通知した。今後の人工海浜の整備や巡回点検、構造のチェックなどのために技術的な事項を定めている。

 特に設計・施工では、
(1) 捨石、既設の消波ブロック、排水管などの上に養浜した際に、重力により下部にある空間に土砂が流失する場合
(2) 波浪などの水圧で透過型構造物の隙間から土砂が流失する場合
(3) 波浪などの水圧で不透過型構造物の目地の間から土砂が流失する場合
の3つのケースに分けて、対策を具体的に示した。

 それぞれの場合に応じて、フィルター層、防砂シート・防砂マットの設置などの対策をあげながら、留意事項についても詳細にまとめている。具体的な時期は明らかにしていないが、国土交通省では、将来は基準類への反映についても検討していく方向を打ち出している。

 行政による技術的な対応だけではなく、民間らによる技術開発の進歩も著しい。なかでも人工海浜の安定化だけでなく、より高質な景観や親水性を求める社会のニーズは、新しい海岸保全技術の開発を喚起した。

 砂浜の下に捨石などで透水層をつくり、波と一緒に運ばれてくる砂だけを浜に残し、海水は透水層を通じて沖に自然排水する近自然型海浜安定化工法などが開発されている。これによって、ほとんど自然の砂浜と同じような景観と親水性をもちながら、浸食に対する海岸保全にも優れた人工海浜への期待はますます高まってきた。

 新しい海岸の創出だけでなく、失われた水辺の修復・再生という期待も合わせて、人工海浜は今後も大きな可能性を秘めている。

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