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「親水」という言葉が初めて使われたのは1970年代といわれており、
いまから30年以上も前のことである。
当時は文字通り「水に親しむ」ための機能性が重視されていたが、
しだいに都市を構成する景観の一部として、快適性やデザイン性が求められるようになってきた。
こうした流れの中で、港や川には「親水護岸」と呼ばれる施設がつくられていった。
親水護岸は、いまや水辺を彩るために欠かせない施設となりつつある。
今回のプロムナードは、水との触れあいを通じて人々の生活に潤いをあたえている親水護岸を紹介する。

機能性・安全性から快適性・景観の追求へ

 護岸は、繰り返して押し寄せる波による洗掘作用から、海岸を守るための重要な港湾施設の一つだ。親水護岸とは、この機能をもちながら、人びとが水に親しみ楽しめるようにした護岸と規定することができる。

 勾配からみた護岸の種類は、直立・急傾斜型、緩傾斜型、階段型の3タイプ。コンクリートや鋼矢板、石積などでつくられる。

 近代に入って、わが国の港湾や都市河川では、安全性を最優先してコンクリートや鋼矢板による直立・急傾斜護岸が数多くつくられた。ところが無機質で無表情なイメージが強く、ともすれば人と水のふれあいを遮断する結果を招いた側面は否定できない。

 このため近年は、親水性や景観を意識して、緩傾斜護岸、階段型護岸が脚光を浴びており、親水護岸の代表的な形式になってきた。広いスペースがとれるのでプロムナードを整備したり緑化しやすく、親水性も高まる。自然との調和を意識した石積護岸も増えてきた。あるいは捨石護岸もある。

 とはいうものの、護岸で重視されなければならないのは、海岸を守るという本来の目的だ。静穏水域では可能でも、外洋に面した自然条件の厳しい水域などでは困難な場合もあり、自然や地形条件に合わせて計画する必要がある。

 親水性と安全性は、ときには相反する場合もあり、工学的に構造や安全性を裏付けた上で構造形式は決められる。そして親水性と調和させたとき初めて実現可能になる。

 人びとが集まり憩いの場所になるだけに、利用者の快適性や景観との調和も大切であり、経済性や管理のしやすさといったことも重要な視点だ。周囲の環境に合わせた材料の選定やデザインも求められる。

 いまわれわれが目にする親水護岸は、こうした点をひとつひとつ克服したうえでつくられているのである。



アートペインティングの場として開放されている現在の馬堀海岸
護岸完成予想図
生態系を考慮した護岸
資料提供:国土交通省関東地方整備局京浜港湾工事事務所
親水性を演出する3つの護岸

 代表的な親水護岸として緩傾斜型と階段型、捨石型をみてみる。

1) 緩傾斜型護岸

 緩やかに傾斜した水際線にして、海と陸との連続性を意識した護岸である。広いスペースがとれるため、開放的な空間が可能だ。表面を自然石で覆う石積緩傾斜型護岸等がある。

 緩傾斜型護岸は、座って海を眺めたり、散策や子どもの遊び場になるなど、さまざまな利用が想定される。このため利用に応じた勾配や表面仕上げをすることが必要だ。

 一方で、緩傾斜にするのは適当な勾配と所定の高低差を確保するため、長い水平距離をとることができる静穏な水域に適した護岸である。

2) 階段型護岸

 階段状にして水面に降りていったり、腰掛けて海を眺められるようにした護岸である。昇り降りするための昇降型、水遊びや釣りのための足場型、海を眺めるためのベンチ型、船が着くため船着場型といった用途が考えられ、これらに適した階段の高さや勾配を検討してつくられる。

 緩傾斜型より短い水平距離で済み、用地が比較的狭くても設置することが可能だ。

3) 捨石型護岸

 自然の石などを捨て込んだ護岸である。捨て込んだだけなので、人がその場所に入って歩くには困難な面があるが、海の生態系には好ましく、自然との調和という観点からも優れている。やはり静穏な水域で、幅が広くとれる場所に適した護岸である。

 これらの3つの護岸に比べると、直立・急傾斜型護岸は、親水性では劣るが、無機質・無表情な表情を緩和するため、景観に調和した護岸材料や天端の緑化、コンクリート化粧型枠などの利用も模索されはじめている。


水辺の復権の象徴的な施設に

 近代化とともに、わが国は水に親しむ多くの場所を喪失してしまった。しかし快適性や環境との調和といった近年のニーズは、あらためて海と陸との接点に多くの人びとの目を向けさせるものとなった。

 厳しい自然に対峙する港湾構造物は、どうしても機能性や安全性が重視されてきたが、今日ではこうしたニーズや視点を抜きにして、施設の整備は進め難いまでになっている。

 護岸は港の景観を形成する重要な施設の1つである。親水性を1つのキーワードに、それぞれの港の個性を生かしながら、人々と海が触れあうための空間を意識した施設づくりへと転換してきた。その波はいまや全国に押し寄せ、親水護岸づくりが進んでいる。

 護岸には、散策しながら景観を楽しめるプロムナードが整備され、デザインされた舗装や公園と一体化し、さらに板を張ったボードウォークなどが水際を演出するというように個性的なものが登場してきた。

 材料や施工技術も進んできた。たとえば芝やツタなどの植物を植えることができる緑化コンクリートが実用化され、河川の護岸工事などに採用されている。

 波が荒い水域でも、消波機能をもたせながら護岸の上を散策したり魚釣りもできる壁面式の護岸構造が開発されてきた。消波ケーソンは、親水性や景観を高めるためにはどうしても構造的に課題があったが、新しい材料や技術の開発がそれを克服し、静穏な水域以外でも親水性を意識した護岸づくりは着々と進みつつある。

 国土交通省や自治体では、多自然型工法として親水護岸の整備に力を入れている。新設だけでなく、高度成長期に整備した護岸の更新に際して親水護岸を採択する例が多い。

 親水護岸は、水辺の復権へ向けた港湾構造物を象徴する施設である。単に水に親しむ人のためだけでなく、植物や魚にもやさしい護岸として、ますます期待は大きい。

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