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津波工学研究室主宰の今村文彦教授(右)の指導を受ける大橋太郎さん(左)

東北大学大学院 工学研究科 津波工学研究室 大橋 太郎さん
世界でも有数の地震発生国にして、四方を海に囲まれている日本。これまで幾度となく大きな津波災害に見舞われてきた経験から、先進的な津波の研究が行われています。南アジアやヨーロッパなどの被災国をはじめ、世界が注目する研究室で、成果の発表を控えた若者をご紹介します。
 
宇都宮出身の大橋さんは土木工学を学ぶために東北大学へ進学

 仙台駅からつづく大通りを西へ。広瀬川を渡ってさらに進んでいくと、まさに「杜の都」の呼び名そのものの緑豊かな景色に包まれます。
 「高校生のころ、この大学のオープンキャンパスに参加しました。市街が近くて便利で、自然も豊か。住み心地がよさそうだと感じました」。
 宇都宮市出身の大橋太郎さんに、東北大学に進学した動機を尋ねたところ、こんな答えが返ってきました。土木建築の道を志していた彼にとって、自然と調和した仙台の街のあり方が魅力的に感じられたのでしょう。
 彼は大学で土木工学を専攻し大学院へ進みました。現在は津波研究の世界的権威である今村文彦教授のもとで、修士論文作成の準備を進めています。
 「テーマは、気仙沼沖の漁船を対象とした海上の津波防災ハザードマップです。気仙沼は、陸地における避難体制などのソフト対策も進んでいます。海上と陸地の連携が図りやすいということで、興味深い街でした」(大橋さん)。
 防災ハザードマップとは、過去の災害記録や科学的な研究、実地調査などをもとに、災害発生時に危険性の高い場所や避難経路を地図上に表したもの。津波が発生すると、波そのものが危険であることはもとより津波によって押し流される大量の砂や岩、船、構造物などによっても大きな被害がもたらされます。一般には予期の難しいさまざまなリスクを想定し、より確実な安全確保を図るうえで、地域住民に分かりやすくプレゼンテーションできる防災ハザードマップは、高い効果が期待できるツールです。
 大橋さんの研究は、気仙沼市の危機管理課と漁業協同組合の全面的な協力のもとで進められています。
 「地元の漁師の方々を対象に、災害が発生した際の避難行動にかかる時間についてのアンケート調査を行っています。地震発生から津波が到達するまでの時間内に、安全な区域に避難できるかどうかは、被害低減の大きなポイントです。アンケートは、母数が多いほど正確な結果につながるので1,200件をお願いしていますが、回収が大変そうでいまから心配です(笑)」(大橋さん)。
 加えて、彼が苦労しているのは、時間経過に伴う危険状況の変化をマップ上では表現しづらいという点。コンピュータグラフィックを用いた動画なら容易に表現できますが、高齢者の方々を含むすべての世帯での活用を優先すると、やはり紙面での提供が適しているといえます。
 アンケートの回収も含め、大橋さんの研究に必要な資料は9月にはひと通り揃う予定。それから論文の作成にとりかかり、完成までに約半年が費やされることとなります。データの読み込みから解析、シミュレーション、マップへの落とし込みまで、決して容易ではない課題が控えています。
 彼の研究の成果が、気仙沼沖はもちろん全国の津波災害の低減に活用されれば、より多くの人々の生命や財産が守られることでしょう。

大橋さんは気仙沼沖の海上津波防災ハザードマップの研究を手がける
津波工学研究室では、インドネシアやスリランカ、タイからの研修生も受け入れている
   
津波シミュレーションのコンピュータグラフィック(防災技術(株)協力)。
いかに分かりやすく津波の動きを表現できるかが、防災知識の普及における重要なポイントとなる

世界で唯一、工学的立場から津波研究を実践
 東北大学大学院工学研究科の今村文彦教授が主宰する津波工学研究室は、世界で唯一工学的な立場から津波の研究を行っている。
 災害対策・制御の概念を中心に、 国内外の現地調査研究、高精度津波数値予測システムの開発、海岸線の防災法、グラフィクス解析など数値計算などで成果を上げている。 特に、その計算技術は世界の津波被害の予想される国への国際的な技術移転の対象となっており、 中核プロジェクトであるTIME(Tsunami Inundation Modeling Exchange)は、国際的な海洋研究機関であるIOC(政府間海洋学委員会)の正式マニュアルに採用されている。

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