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海中で溶接作業を行う潜水士、大森泰志さん |
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「自分なら問題なくできると思っていたので、打ちのめされました」と、大森泰志さんは自身の初仕事を苦く振り返ります。彼が作業潜水士として社会に出たのは9年前のこと。スクーバダイビングの指導者を目指して専門学校に通っていた経験から、潜水には自信をもっていました。 ところが、プロデビューの舞台は季節を問わず時化ることが多い鹿島港周辺。スクーバダイビングのように穏やかで澄んだ海に潜るのとはわけが違い「先輩に付いていくのが精一杯」。彼の勤務先は鹿島港に近い茨城県神栖市。いわばホームグラウンドである鹿島港で受けた手痛い洗礼は、彼を奮起させました。 キャリアを重ねた現在では、施工状況の調査や捨石均し、構造物の据付・撤去、溶接・切断、穿孔ほか、多様な潜水業務を手がけています。現場は「呼ばれれば全国どこへでも」。海はもちろん湖や下水道、工場内の浄化槽まで、およそ潜れるところはすべて仕事場です。陸上であれば専任の職業として成り立つ仕事を水中で一手に引き受ける、それが作業潜水士の技能といえます。 「現場によっても日によっても作業内容が違うから、飽きることがないですね。いろいろな作業を自分のやり方で進められる点が面白い。もぐり(作業潜水士の通称)は頑固だと言われますが、確かに職人意識は強い」。仕事を休んだスタッフの代役で作業にかかると、自分の進め方との違いに戸惑いつつ、自分ならもっと上手くやるのにと感じるのだそうです。 大森さんの仕事は、実は潜水工事だけではありません。勤務先がサルベージ事業(海難船舶救助をはじめとする緊急時対応)を展開しているため、現場に潜って事故状況を調査することも業務の一環です。時と場所を選ばない事故に対応するため、勤務時間は不安定になりがちです。 「1日の仕事を終えて帰宅しようとしたところに連絡が入って緊急の現場に向かったり、早朝や深夜に呼び出しがかかったり。サルベージがあることを知っていて入社したので、覚悟はできていましたが」。 業務のシビアさはもとより、水中という環境がリスクを伴います。現在、一般的な潜水方式はボンベを担いで潜る「スクーバ式」と、水上からコンプレッサーでエアを送る「フーカー式」および「ヘルメット式」。いずれもエアの供給が故障すれば生死に関わります。また10m以上の深度から急浮上すると減圧によって血管が詰まってしまい、これで命を落とす潜水士もいるという危険な環境にあるのです。 「でも事故状況の報告を読むと『こうしていたら防げた』というポイントが明確なんです。危険がないとは言いませんが、だからこそやりがいを感じています。だれでもできる仕事ではありませんから」。 シビアな仕事がプロの強い矜持を育み、支えているのです。 |
作業潜水士のスタイル | ||||||||||||||||
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潜水士に期待される役割
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[取材協力・写真提供]三国屋建設株式会社/社団法人日本潜水協会 |
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