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バックホウは建設業界で
最も普及している建設機械の1つ。
いまさらという気がするかもしれない。
だがちょっと待て!
もし作業場所が水中だとしたらどうだろうか。
陸(おか)では想像できない
厳しい条件があることは容易に推察できる。
そんな困難に敢然と立ち向かった1人の男がいた。
圧倒的な施工能力に『今度はいつ来てくれる?』

 土を掘ったり物を移動させたりするバックホウを、水の中でも使えるようにしたのが水中バックホウだ。港湾工事を飛躍的に効率化する機械として開発されてきた。潜水士が運転し、基礎捨石の均し、床掘り、被覆など多様な用途に対応する機械として注目を集める。
 水中バックホウを言葉でいうのは簡単だが、水の中という特殊環境に耐える技術の開発は単純には済まされない。実用化には多くの困難とそれを克服するための戦いの日々があった。開発に着手してから実に20年あまり。長い雌伏の時をへて、ようやく表舞台に登場した。
 開発したのは沖縄に拠点を構える小さな潜水士の集団、古松が率いる極東建設だった。「水中バックホウのプロ中のプロ」。古松は港湾土木工事業界でこう評される海の男だ。
 開発した機械の特筆すべき点は、なんといってもその作業能力だ。潜水士による人的作業の10倍近くにもなる。「というよりも人手と比較することがほとんど無意味」と古松が語るほど、圧倒的な能力だ。確かにTKM320型と呼ばれる最新鋭機を目の前にしたとき、その迫力ある存在に人間の力はあまりにも無力すぎることを実感させられてしまう。
 与那国島で初めて実用化、これを契機にその性能が高い評価を受け、全国に広まってきた。現在、極東建設で10台、全国に20台が活躍する。タイプや性能もさまざまのものが開発されてきた。ほとんどは古松が開発した機械をベースにしてつくられたものだ。
 「今度はいつ?今度もぜひ!」。その能力をまざまざと見せつけられた発注者らは、まるで一目惚れしたかのように熱い眼差しを向けるという。もはやその施工能力や精度に疑いをもつ者はいない。
 だが20年以上の時間が示すように、表舞台に立つまでには数々の困難なドラマがあった。なによりも陸では当たり前でも、「ことは水の中であり陸の論理は通用しません」。水圧、浮力、波力、潮流。それに防水、耐久性、電気防食、操作性、安全性、動力供給方法など、すべてが「ゼロからの出発」だった。
 「機械は正直者です。甘い考えをすればとんでもない試練を突きつけてくる」。陸の発想で「このくらいでいいだろう」と設計すると、「必ず強烈なしっぺ返しを食いましたね」。
 とくに水圧対策では何度も何度も辛酸をなめる。水圧は「薄い膜を重ねたように均等」だ、しかし機械はいつも水平ではなく、「ちょっと傾けば水が入ってくる」ほど微妙だ。「パスカルの原理とか学校で習った理論は大切ですが、そんなものだけでは通用しないことを痛切に感じました」と振り返る。
 幸いだったのは、古松自らが潜水士だったことだ。自ら「少ない知識しかなかった」というが、その代わりに現場での豊富な経験があった。それを徹底的に磨きながら研究した。
 あるとき、こんな疑問にぶつかった。それまで何気なく見ていた水中の空気泡が、海面に近づくにしたがって形状が変化することに、「なぜか?」と考えた。それで理論を勉強した。現場での疑問を理論的に追求して解決する。一つ一つ積み重ねていき、バックホウの開発に応用していった。
 理論だけでなく製作の段階でも困難に直面する。なんと今度は部品がない!陸上のバックホウを改良しようにも、水中に使えるものがなかったのだ。「それでどうしたのかというと、トイレの詰まりを吸い上げて直す道具とか水道のパッキンなど、ありとあらゆるものを応用しましたね」(笑)。
 不思議と「どんなに苦労しても絶対にあきらめませんでした」。それは執念というよりも、「もともと好奇心が強い性格。それにモノをつくるのが好き」という性格からだった。構想から20年。ついに夢は実現した。


主役はあくまで潜水士。機械は道具です

 それにしても自らも潜水士である古松が、なぜ自分の仕事を奪いかねない機械化に取り組んだのか、それもなぜバックホウなのか。「いいえ、潜水士の仕事を奪うのではなく、潜水士にいい環境で効率的な仕事してもらうためです。主役はあくまでも潜水士であり、機械はその道具という位置づけなんです」。
 バックホウにこだわったのは、「人間に一番近い動きをする。だからこそこれだけ普及している」という確信からだ。主役はあくまで潜水士だから、水の上で遠隔操作するのではなく、潜水士が水中で操作することにこだわった。実際に水中で操作することで、「さまざまな情報が得られる」という判断もある。
 きっかけは、構造物が沖合・大水深化をみせる時代にあって、「潜水による人力作業はあまりにも過酷すぎる」との思いからだった。それと沖縄の海である。南の海のイメージから想像しにくいが、「実をいうと沖縄の海は荒れます」。台風だけでなく2月頃の季節風がすごく「何10tもある消波ブロックが陸に打ち上げられるほど」だ。しかもいつ荒れるかわからない。できるだけ早く施工する必要があるが、人手では限界があると実感していた。せっかく捨石を均したのに、海が荒れて台無し。そんな辛さと無力感を感じたのは一度や二度ではない。
 「なんとか急速施工したい。でも自然に立ち向かうには人力ではあまりに微力すぎる。巨大な力がほしい!そのためには機械しかない!」。そう決断したのが始まりだった。


カッコいい潜水士へ。まだまだあきらめない

 すごいのはそれからの古松の行動だ。なんとそれまでの潜水士の組織を離れ、極東建設の中に自分たちの仕事を高度化するための機械を開発する専門の「部署」を設立してしまった。さらに研究開発の拠点となる工場まで整備した。
 機械の開発にあたっては、自らが操作して確かめた。そして社内の潜水士からもその都度意見を聞いて改良していった。メーカーに頼るのではなく、潜水士が自分たちの仕事を進化させようと、自分たちで考えてつくった機械だから、潜水士の評価が悪いはずがない。「陸上でどれだけの技術を持っているかでダイバーの能力は決まる」。古松は普通の潜水士とは少し異なるこんな考えをもっている。陸で通用しない技術は海でも通用しない。潜水は特殊な作業ではなくまず陸上での技術が前提、それにプラスして潜水技術が必要というのだ。そんな思いが機械の開発につながり、さらに社員の運転技術の向上を促す。
 「水中バックホウだけでなく、すべての水中施工の機械化を考えています」。古松は将来の夢をこう語る。「水深100m位までの機械化は、土木作業という意味ではほぼ完成形」で「あとは夜間や濁った場所でも見えるセンサーなど周辺機器の問題」と続ける。
 古松は将来の潜水士の世界にも思いを巡らす。見据えるのはパソコンを駆使しながら、機械を自在に操る潜水士の仕事。不器用でも通用する腕力の世界ではなく、スマートでカッコいい潜水士だ。
 「そうすれば業界に人も入ってくる。そんな世界にしたいですね。まだまだこれで終わりません。環境にも人にも優しく、それでいてすごい機械をつくりますよ」。

(おか)の機械を水中用に改良−各種アタッチメントで多彩な用途
 水中バックホウは、陸上部で使う機械を水中で問題なく使えるようにさまざまな改良がなされている。
 まず原動力はディーゼルエンジンから水中電動モーター(電動油圧式)に載せ換え、付帯設備として発電機、支援ユニット、動力ケーブルを装備した。支援ユニットには、潜水士も管理できるようにコンプレッサー、予備空気槽、水中電話、フーカーホースもセットされている。
 少ない機械で稼働できるため、機械のセットは起重機船や既設の護岸など、現場の状況に応じて自由に組み合わせることが可能だ。しかも支援船などに搭載した発電器で動力を供給するので、電力ケーブルを伸ばせば作業範囲を任意に拡大することができ、これまで最高800mまで伸ばした実績がある。
 用途は港湾工事だけではなく、配管工事や構造物撤去など特殊工事にも広がった。各種アタッチメントがあり、均し、掘削、被覆、締め固め、岩盤掘削などさまざまな工事に適用できる万能型の機械だ。
アタッチメント  
爪付バケット
ツインヘッダ
ドラム型
回転ブラシ

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