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 1984年、1台の実験装置が大阪湾に面した鳴尾浜に設置される。
「遠心力載荷模型実験装置」。
 今日でこそこの装置をもつ企業は増えたが、当時は技術者にさえほとんど知られていなかった。大手ゼネコンが設備を整えるはるか前のことである。
 民間企業では世界初だった。
 そんな先端装置がなぜ導入されたのか、いったいどんな実験・研究をしようとしたのか。
そんなにいいもんなら、つくりゃいい

 いまから約20年前の建設業界。遠心力載荷模型実験装置の仕組みや原理は、技術者でさえあまりピンとこなかったに違いない。三宅と装置の出会いは、1970年代までさかのぼる。大学時代の研究課題で文献調査をしたときだった。
「東工大が研究していたのですが、『へえ〜、(実験研究に)うまく使えるもんだなあ』って驚きましたね」。その時の印象を三宅はこう語る。
 しばらく忘れていたが、再び遭遇する。会社に入って1年ほどたったときのことだった。
「四国の埋立工事で、埋立後の地盤がどう変化するか、よくわかりませんでした。悩んでいるときに、大阪市立大の先生がこの装置を使って研究していることを知り、アドバイスをいただいたんです」。
 大学の実験施設を借りて予測し、工事は無事終わったが、「将来を思うと自前でつくりたい」。そんな気持ちが日に日に募っていく。思い切って上司にうち明けた。しかし導入するとなれば費用も相当かかるだけに、直属の上司が決断できるレベルの話ではない。
 なにより遠心力載荷模型実験装置とはいったいどんな装置かわからない。大手ゼネコンにもない設備がうちに必要か、導入して成果はあがるのか、宝の持ち腐れにならないか。おそらく社内にはそんな疑問もあったはずだ。
「そんなにいいもんなら、つくりゃあいいじゃないか」
 いろいろあったが、拍子抜けするほどあっさり装置の導入は決まった。ある幹部の一声からだった。
 こうして民間企業では世界初となる装置が現在の東洋建設鳴尾研究所に誕生することになる。


40cmの縮尺模型が100mの実物になる

 「縮尺模型に遠心力を作用させることで、実物と同じ応力状態が再現でき、自重の影響が大きい地盤の変形や破壊挙動といった現象が忠実に再現できる。これが遠心力載荷模型実験装置です」。
 三宅は装置の原理をこう説明する。
 それまでの自重応力が小さい縮尺模型による実験では、ほとんど不可能だったが、遠心力を加えることで、縮尺模型でも「実物と同じ構造物の自重を再現できる」という。
 この理論を応用したのが遠心力載荷模型実験装置だ。力学的特性を一致させる相似則に沿って、実際の地盤や構造物と同じ力学的状況を縮尺模型で再現する。
 導入したのは、現在の主流となっているビーム型の装置。ビームの先に縮尺模型を設置し、高速で回転させる。
「最大遠心加速度は250Gです。したがって40cmの縮尺模型は、100mの実物に相当することになります」。
 このときビーム先端の回転スピードは、時速300Kmに迫る。新幹線以上のスピードだ。振動装置を備えており、遠心加速度を与えながら揺らせば、地震による地盤や構造物の挙動を実構造物と同じ状況でシミュレーション・解析できる。
 1998年にはドラム型と呼ばれる装置も導入した。造波装置が組み込まれており、「(会社が得意とする)海洋構造物の研究開発を飛躍的に向上させる」と自信を見せる。


安いブランデーが高級ブランデーに瞬時に変わる?

 装置を使い、これまで土質・地盤の未知の領域を解明してきた。その成果は、地盤の液状化、埋立造成、シールドトンネルなどさまざまな分野に及ぶ。関西国際空港、中部国際空港といったビッグプロジェクトの建設を陰で支えた。
「われわれのいままでの技術は、限られた知見の範囲内での完成版であって、実はまだ未知の領域がいっぱいあるんです」。三宅はこう冷静にみながら「1Kmと10mのメッシュでは、地形の精度は当然違います。細かい部分が全体にどう影響するのか、精度を高めていく必要がある」と強調する。
 それを可能にしたのが遠心力載荷模型実験装置というわけで、シミュレーション・解析技術は飛躍的に高度化した。
 しかもおもしろいことに、装置には「時間の短縮効果」という不思議な現象がある。相似則により、なんと「時間が加速度の二乗分の一に短縮される」というのだ。ということは、100分の1の模型に100Gの加速度をあたえると、10,000分の1に短縮できることになる。10,000日分の実験が、わずか1日ですむ計算だ。
「これを応用して1つアイデアがあります。安物のブランデーをこの装置に入れて加速度を与える。そうすれば短時間で高級ブランデーになるはずですよね?」(笑)。
 もちろん冗談で、時間の短縮効果をわかりやすくたとえた“解説”である。


水際地盤学。この新しい領域を極めたい

 いま三宅には1つのテーマがある。それはこれまでの研究成果を集大成し「水際地盤学」という新しい分野を確立することだ。簡単にいうと「波浪、地盤、構造物の3つの相互作用を考えていく」工学領域らしい。海岸工学や地盤工学があるが、これを融合させたものという表現もできるようだ。
「海岸工学は波浪と構造物の2つの関係からなり、地盤の作用についてはあまり考えません。地盤工学は地盤と構造物の関係でみて、波浪のことは対象外といった感じです。でも海洋構造物をつくるときには、専門外だからと考えないではすまされません」。だからこそ3つを融合して相互作用を評価する水際地盤学が必要というわけである。
「技術は正直で原理原則があります。何があっても正直に、原理原則をきちっと守ってきました」。技術者としてのより所となる信念だ。原理原則を無視するようなことには「絶対にくみしません」。
 こんなことがあった。あるビッグプロジェクトでのことだ。地盤の状況が発注者側から提供されたデータとは異なることを三宅らが発見する。よりよいものを経済的に施工するには工法を変更する方がいいと判断した。だが工期は限られ変更するとなればロスが生じる。それに発注者の考えの否定とさえとられかねない。
 それでも信念に忠実に従った。発注者も三宅らの提案を評価してくれ、「工法はガラっと変わりました」。
 水際地盤学の確立、そして信念を貫き提案に技術的裏付けをするうえで、遠心力載荷重実験装置は三宅にとって頼れるパートナーだ。
 この分野では内外の多くの専門家から「世界のトップクラスではなくトップ」と評される。いいものはつくればいいという正論はいま、見事に実を結んだ。

高い精度で実験領域を飛躍的に拡大する
遠心力載荷装置の概略
 遠心力載荷模型実験装置は、わが国でおよそ40基が導入されているといわれ、多くの研究成果をあげてきた。これほどの装置が稼働するのは世界でも珍しく、「日本は遠心力載荷模型実験装置のメッカ」という説もあるほどだ。
 装置には各種の計測器やモニター、カメラ、VTRなどが装備され、中央制御室で集中的にコントロールされる。
 三宅らが保有する装置のスペックは、ビーム型の最大遠心加速度250G、ドラム型が440Gである。
 ドラム型は、直径2.2mと世界最大。ドラム(円筒)を高速回転させるもので、このドラムが試料容器の役割を担う。装置が小型なのに加えて、円周方向に連なる地盤が作成できるため、長大構造物のモデル化に適した装置だ。
 造波装置をもつのも世界初。より経済的で安全な設計・施工技術を可能にする。
 ただ三宅自身は、世界最大といった大きさには、それほどこだわりはない。それは「簡便さが装置の良さであり、あまり大きくなると、もはや模型実験の意味をなさない」からだ。近年、大型化する装置の傾向に、パイオニアとしては「ちょっと違うのでは」との思いもある。
 遠心力載荷模型実験装置は、それまでの実験領域を格段に広げ、高精度のシミュレーション・解析を可能にした。
 たとえば阪神大震災でも問題になった液状化現象。真砂土は液状化しにくいといわれていたが、あっさりと液状化してしまった。「この装置を使って実験すれば、液状化するのがよくわかる。真砂土が液状化するのは、阪神大震災のずっと前からわかっていました」(三宅)。
 あるいは昨年、兵庫県の人工海浜で起きた予期せぬ陥没事故についても、この装置を使ってメカニズムを解明し対策を練ることができ、「国土交通省からも問い合わせがありました」。

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