『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて

『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて

笠岡港から十数キロの範囲にあるこの島々には、5000人の人々が暮らしている。
島民の生活を物流や通学、そして福祉活動に至るまで、さまざまな側面から支えているのが笠岡港と、笠岡諸島に点在する小さな港だ。
多くの島々からなる瀬戸内ならではの港の様子を、福祉船や通学船が行きかう笠岡の海からレポートする。

笠岡諸島・北木島大浦港の漁船だまり。よく手入れされた船が並んでいる

笠岡港 笠岡諸島

日本初の動くデイサービスセンター福祉船「夢ウエル丸」

 穏やかな海に陽が映える瀬戸内海の港、笠岡港。この港の南には大小約30の島からなる笠岡諸島が広がっている。そのうち人が住んでいるのは高島、白石島など7つの島々で、もっとも大きな北木島でも人口1500人ほどという小さな諸島だ。笠岡港と島々の港は、この地域に住む人々の暮らしをさまざまな形で支えている。

 これらの港は島に住む人々の日常の「足」として笠岡港と笠岡諸島を結ぶ定期船の寄港地だ。船は笠岡にある学校に通う子どもたちや、買い物に出かける人々が乗り降りする、バスのような存在だ。人だけでなく郵便物や宅配便、通信販売で購入した品物などもこれらの船で運ばれる。

 定期船以外に笠岡ならではのユニークな船もある。そのひとつがお年寄りのための笠岡市の福祉船「夢ウエル丸」だ。93年に就航した、日本で初めての福祉サービス船である。笠岡諸島にはお年寄りが多く、一人暮らしの人や寝たきりの人もいるが、島にはリハビリやデイサービスを受けられるような施設がなかった。しかし建物を造っても通うのが大変だ。それなら福祉設備を積み込んで島の港をめぐり、様々なサービスを提供すればいいのではないか。夢ウエル丸はそんなユニークな発想から生まれた。

 夢ウエル丸は月曜から金曜までの毎日、午前9時に笠岡港を出港し、笠岡諸島の各港に停泊して活動する。毎日ひとつの港を順番に回るので、同じ場所には月2、3回寄港することになる。2階建ての船の1階にはリハビリルームと浴室、2階に親睦交流室と人工芝を張ったデッキがある。浴室は普通の浴槽と寝たきりの人でも入れる特殊浴槽の二種類だ。

古城山公園から見下ろした笠岡港。公園にはかつて村上水軍が築いた笠岡城があった

北木島楠港に停泊中の「夢ウエル丸」。さほど大きくはないが、居心地のいい船だ

江戸時代から続く漁具店「廣井三郎商店」は、笠岡港からほど近い町中にある。現在の当主は11代目。後ろは白いなまこ壁の土蔵になっており、笠岡の古い歴史を感じさせる

生活指導員の中塚俊夫さんは明るくて親しみやすいキャラクターの持ち主。「この船に来てもおもしろくない、なんて言われないようにいつも新しい工夫をしていかないと」