プロムナード 人と、海と、技術の出会い
岸壁と並ぶ一般的な係留施設に「桟橋」がある。
その名のとおり橋梁のような形状をした港湾構造物で、現在のわが国の代表的な埠頭の係留施設に多く採用されている。
構造物としては軽量で、軟弱地盤においても比較的建設が容易な係留施設だ。
その基本的な構造と仕組みを見てみよう。
図−1 直杭式横桟橋
図−2 斜杭式横桟橋
図−3 浮桟橋
軟弱地盤でも低コストで建設可能
桟橋は、柱状の構造物の上に床を乗せて係船岸とした係留施設。柱などの支柱による支持とし、杭頭を桁で連結して床板を載せたものが基本的な構造である。陸地から突き出して建設するものを単に「桟橋」、陸地と平行につくられる桟橋を「横桟橋」として区別している。
特徴は、次の3点に集約される。
・重力式に比べ軽構造であり、軟弱地盤でも建設できる。
・船の発着が容易である。
・反射波が少ないので、港内の静穏度が保てる。
欧米には木杭を採用した桟橋が多くあるが、わが国では大型船用桟橋のほとんどは鋼管杭によるものだ。東京、横浜、大阪など、わが国を代表する港の埠頭の多くがこの方式で建設されている。
基礎構造は杭、筒柱、橋脚の3タイプ
支柱は、杭(鋼管、鉄筋コンクリート、木材)、筒柱(円筒または角筒)、橋脚(ケーソン、矢板セルなど)としているのが一般的だ。それぞれの特徴をもう少し具体的にみる。
杭式は、構造が簡単であり、施工も比較的に容易だ。大水深の場所でも対応可能である。筒柱式は、杭支柱に比べると断面を大きくすることになるので、杭式より水深が深い場所でも建設できる。その一方で、支柱基部の反力が大きくなるので、基礎杭を多くして対応する。脚柱式は、杭式や筒柱式よりもっと支柱断面は大きくなり、さらに大きな水深や荷重にも適用可能だ。
すなわち、水深が深くなるにしたがって、杭、筒柱、橋脚の順で採用構造が決まってくるということができる。
岸壁にはない特徴をもつ桟橋ではあるが、その前提としてクリアしておくべき課題もある。まず、船の発着時の衝撃に対し十分な強度を確保するために、桟橋そのものの構造・安全性を確保すると同時に、船の衝撃力を緩和・吸収する防舷材を設けることがある。
船の発着時の衝撃は、接岸エネルギーと考えられ、そのエネルギーは船舶の大きさ(質量)や接岸速度などで変わってくる。防舷材とは、この衝撃を吸収して桟橋や岸壁を守るために設けられる装置のことで、ゴム製が一般的だ。防舷材の吸収エネルギーが、対象とする接岸エネルギーを上回るように形状や寸法を決める。また、荒天時に波浪が床板を押し上げる揚圧力が働くことがあるため、床板の部材の強度を高めたり、水塊による空気圧の逃げ場となるような孔をあけて防止することも課題の1つとしてある。
ただし、桟橋や岸壁は、静穏が保たれている港内に設けられるのが普通であり、その場合には床板に対しての荒天時の波圧は考慮されてはいない。静穏域に桟橋を設計するうえでは、上載荷重と地震に対する耐力が重要な条件となる。
最新技術を駆使した横浜港大桟橋
わが国を代表する桟橋である横浜港大桟橋は、海上に打ち込んだ杭を脚柱とし、この上に床板で上部工を設けた構造である直杭式横桟橋が採用された。船舶から伝わる圧力や地震、波力などの外力に対して、杭により抵抗する。建設地の地盤が軟弱であり、他構造と比べて適応しやすいのを受けて採用されたものである。
工期を短縮するための工場製作によるPCホロー桁の採用(主桁)、杭本数の削減、さらに地震時の杭頭の変位を許容値内に抑えるためのサンドコンパクション工法等による地盤改良、基礎捨石による根固めを行う構造にも見るべき工夫点が多い。
浮体構造で基礎を不用にした浮桟橋
同じ桟橋でも、構造的にまったく異なるタイプもある。「浮桟橋」と呼ばれる施設だ。支柱で支えるのではなく、文字どおり海に浮かせた桟橋である。
ポンツーンと呼ばれ、木材や鋼材、コンクリートでつくった箱船(浮体)を海上に浮かべて係留、これを連絡橋で陸地と結ぶ。箱船内部の骨組みは鋼構造で、外殻をプレストレストコンクリートで覆ったPCハイブリッド構造が近年多くなった。係留には、経済的なチェーン係留と浮体の動揺が少ない杭係留の2方式がある。
基礎部分がないため、岸壁や桟橋に比べて、建設費が安くすむのが最大の優位点だ。とくに軟弱地盤だったり、水深が深い場所でのコスト縮減効果は大きい。しかも、潮位の差があってもつねに桟橋と船舶の高さは一定に保たれ、潮差が大きな港では昇降や荷役に便利である。
ただし、どうしても波浪による影響を受けやすく、従来は港奥部に計画されたため、大型船用には不向きであった。そのため荷役能力にも限界を生じ、旅客を中心とした小型船や小型カーフェリーの係留施設として広く採用されている港湾施設である。