若き海洋人たち

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ガントリークレーンが並ぶ神戸港近くの学校で、港の仕事を夢見る小谷智恵美さん


港湾職業能力開発短期大学校 神戸校 港湾流通科 2年生 小谷 智恵美さん

いまや、だれもが志望や適性に応じてさまざまな職業に就ける時代。これまで「男の仕事」とされてきた港湾作業の現場でも、女性の活躍が見られるようになりました。重機や大型トラックを自在に操る頼もしい姿を夢見て、着実に歩みを進める女子学生の話をご紹介します。

「クレーンの運転に必要な反射神経には自信があります」(小谷さん)


 「まずは港湾の現場事務に就いて作業助手などもやらせてもらい、ゆくゆくはこれから就職する会社で初の女性クレーンオペレーターになれたらいいなと思います」。
 港湾職業能力開発短期大学校神戸校の2年生で、現在就職活動中の小谷智恵美さんはそう語ります。
 岸壁上に設置されたレールを移動しながらコンテナを効率的に積み卸しするガントリークレーンや、倉庫の天井に渡されたレールに沿って荷物を移動する天井クレーンなどの運転は、港湾流通の仕事のなかでも特殊技能を要する仕事。港湾流通システムのマネジメントを中心に、幅広い科目に優秀な成績をおさめている彼女ですが、機械運転の実技については教員も一目置くところです。「おだてられているのかも知れませんが『上手い』と言われます」(小谷さん)。
 彼女は昨年の秋、クレーン運転士の学科試験に合格。現在、間近に迫る実技試験に備え、放課後も学校に残り、自主的に練習をつづけています。「だいぶコツがつかめてきました」(小谷さん)。
 彼女は、卒業に必須とされるけん引(750kg以上の車両をけん引する作業)、玉掛け(荷にワイヤロープなどを巻きつけたり、クレーンのフックに掛けたりはずしたりする作業)はもちろん、現場作業車の運転に必要な大型特殊免許もすでに取得しています。


 小谷さんは、生まれも育ちもみなとまち神戸。彼女のお父さんも神戸の港湾運輸会社に勤務しており、彼女が高校卒業後の進路について相談したところ学校を紹介され、この道を志すことに。お父さんは同校の前身だった訓練校のOBなのでした。
 「父の話を聞くまで、特に港の仕事に興味はありませんでした。でも、一般企業の事務職ではなく、技能を活かせる職に就いてずっと仕事をつづけていきたいという思いがあり、やってみようと決心しました」(小谷さん)。
 女性が港の仕事に携わるケースが増えてきているとはいえ、まだまだ男性が圧倒的に多い職場。学校も一学年45名のうち、女性は小谷さんを含め4名です。気詰まりはないかと尋ねると「人見知りしない性格のせいか、まったく気になりません。同級生からもあまり女性扱いされていませんし(笑)。重機やトラックを運転する女性の姿って、かっこいいと思います。それに女性の丁寧な仕事が活かせる機会もあるはず」(小谷さん)。
 学校の卒業研究では、けん引免許に合格するためのオリジナル教材を作成しているという彼女。週5日間9時から16時まで授業を受けながら、就職活動と実技試験の準備までと慌ただしい毎日を送り、夢に一歩一歩近づいています。近い将来、神戸港のどこかで、天を仰ぐようなクレーンを運転する彼女の姿が見られることでしょう。


小谷さんは、放課後も自ら居残り、天井クレーンの実技試験に備えて練習を重ねている

港湾職業能力開発短期大学校神戸校には、日本で唯一のコンテナクレーンシミュレーターを保有。シート下のモニターには40〜50m下の地上の映像が映し出され、風による運転室の揺れも再現される

同校には、運転実技だけではなく港湾流通・物流システムのマネジメント業務を学ぶ科目も設けられている


港湾・物流業界の未来を担う人材の育成を目指して
 港湾職業能力開発短期大学校神戸校は、港湾・物流業界の新しい時代を担う高度な知識と技能・技術を兼ね備えた「実践技術者」の育成を目的に、西日本の拠点校として、厚生労働省関係団体の独立行政法人雇用・能力開発機構によって設立された。
 港湾流通システムにおけるマネジメント業務を学ぶ港湾流通科と、情報化の進む物流システムと総合的な管理業務を学ぶ物流技術科のほか、離職者の現場復帰を支援するコースや各種セミナー、オープンキャンパスなども設けられている。
 卒業後の就職率は100%で、そのうち97%以上が港湾・物流関連企業。業界の未来を担う人材を輩出し続けている。