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 北緯45度近辺と南緯45度近辺の上空を西から東へ吹く強い偏西風は、北極・南極と赤道付近の温度差および地球の自転の影響によって起こる。偏西風そのものも南北の温度差が大きい。
 貿易風は北緯15度近辺と南緯15度近辺の上空を東から西へ吹く風で、こちらも地球の自転によって起こる現象。赤道付近を吹くため、南北の温度差はあまりない。インド洋を吹くこの風に乗って貿易船が航海したことから付けられた名で、偏東風とも呼ばれる。
 
現役で航行するインド洋の「ダウ船」(写真上)、インドネシアの「ピニシ船」(写真下)などの木造帆船は、ディーゼルエンジンを積んではいるものの、風や海流の具合によってはエンジンを止めて帆を張り、自然の力だけで進む
風と自転が起こす海流
 海流とは、常に一定の方向へ動く海水の流れのこと。地球上でいくつかに分けられている大きな海には、それぞれに海流が存在する。太平洋には北太平洋海流、インド洋には南インド洋海流、大西洋には北大西洋海流と南大西洋海流というように。
 大西洋海流が北と南に分かれているのは、もちろん北と南で別の海流が存在するからで、混ざり合って一つの海流になることはない。北大西洋は時計回りに、南大西洋は反時計回りにぐるぐると流れているのだ。
 この北半球と南半球で異なる流れの回転方向は、世界中のほとんどの海流に共通する現象である。では、なぜこのようなことが起こるのか。
 北半球では北緯45度付近に西から東へ偏西風が吹き、北緯15度付近に東から西へ貿易風が吹いている。厳密にいえば、偏西風は温度差の影響で北東向き、貿易風は赤道付近の上昇気流の影響で南西向きだ。
 ならば海流もこれらの強い風に引きずられて北東や南西へ流れそうなものだが、ことはそう単純ではない。地球の自転が関わってくるのだ。自転の影響により、海面には偏西風や貿易風の進行方向よりも右向きの力が働く。この力の方向は、海が深くなるにつれて、さらに右へずれるのである。
 すると、循環する海流の北側では全体的に南方向へ、南側では全体的に北方向へ海水が流れ、結果、循環の中心に向かって海水が集まり、中心部の海面が盛り上がった状態になるのだ。循環の中心を頂点とした勾配の緩やかな山のような形である。そして、地球が自転しているかぎり海水は山の斜面を滑り落ちることなく同じ高さにとどまり、時計回りに周回するように流れる。偏西風や貿易風に自転の力が加わった海水の運動、これが海流の正体だ。南半球の偏西風と貿易風は、北半球のそれらをちょうど南北に反転させた位置と方向に吹いており、海水の流れにかかる自転の影響が北半球とは反対に働いて反時計回りとなる。
 
世界を循環する巨大な流れ
 上に述べた海流は表層海流と呼ばれるもので、そのほとんどが一つの大洋のなかだけを巡回している。世界の海はつながっているが、実質は各大陸で隔てられているからだ。
 ところが、もっと深いところでは世界をまたにかける巨大な流れが形成されている。この深層海流は、別名で熱塩循環とも呼ばれる。熱と塩を原因として発生する循環という意味だ。この二つは海水の密度を決定するもので、深層海流は海水の密度の大小によって起こる現象である。
 海水は熱が加わって温まると密度が小さくなって軽くなり、冷えると重くなる。塩分濃度が高まれば重くなり、低くなれば軽くなる。重くなった海水は深層へ沈んで海底の地形に沿って流れ、軽くなった海水は表層へ浮かんで、表層海流の影響を受けて流れる。これが深層海流のおおよそのメカニズムだ。
 深層海流が起こるためには、どこかで海水が沈み込まなければならない。だが水深4,000mを超えるようなところまで沈み込める海域は限られており、現在確認されているのは北大西洋のグリーンランド沖と南極周辺の2ヵ所のみである。
 深層海流の流れを紹介すると、出発点は北大西洋。ここで表層から潜り込んだ海水は海底地形にそって南へ流れていく。赤道を越えてさらに南下し、南極周辺で沈み込んだ海水と合流し時計回りに循環する。その一部はインド洋と南太平洋から北上するようになり、赤道を北へ越えて表層の北太平洋循環に合流する。表層に戻った海水の一部はインド洋に入り、そこで表層に戻った海水を加えてアフリカ大陸の南端を通り、再び大西洋の表層循環に乗って北上する。これで一周したわけだが、この循環は数千年ものサイクルで進んでいる。
 深層海流の出発点である北大西洋で、カナダの氷山が溶けて大量の真水が海へ流れ込み、塩分濃度が下がったことが過去8回確認されている。塩分濃度が低くなった海水は密度が下がって沈み込みにくくなり、海流全体に影響が及ぶ。海流は熱を運んで気候に影響するわけだが、氷山を溶かす主な要因も気候。海流と気候は相互に密接な関係をもつ。われわれの住む地球は、実にデリケートなバランスによって成り立っているのである。

日本人がウナギにありつけるのは黒潮のおかげだ
親潮と黒潮
日本人の食生活を支える二つの海流
 日本の太平洋側沖合では黒潮と親潮がぶつかり合っている。この二つの海流が日本の食文化に及ぼす影響は実に大きい。
 黒潮は世界でも有数の暖流で、時速7kmと大人の小走り程度の速さで流れる。幅100kmにも及ぶところもあり、毎秒5,000万トンもの海水を運ぶことがある。フィリピンの近海から黒潮に乗って運ばれてくる日本人の大好物がある。ウナギだ。ウナギの一生には解明されていないことも多いが、フィリピン近海で孵化して日本の近くまで流れ、稚魚に育つことが分かっている。
 一方、親潮は一般的な北半球の海流とは異なり、北太平洋北部を反時計回りに流れる亜寒帯循環。カムチャッカ半島沿いに南下し、千島列島からオホーツク海に入る流れとそのまま南下して北海道及び東北沖合に達する流れに分かれる。親潮は栄養分に富んでおり、三陸沖から北海道東方沖で黒潮とぶつかることで強い潮目を形成。潮目が生じる海域はマイワシやサンマ、イカ、カツオ、サバなどの豊かな漁場となる。親潮の豊かな栄養塩が黒潮に温められてプランクトンが爆発的に増殖し、これを餌とする魚が集まるのだ。

[参考資料]「謎解き・海流と大気の物理」保坂直紀/講談社ブルーバックス、独立行政法人海洋研究開発機構HP「地球をめぐる大きな流れ 海流」

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