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鋼板や鋼矢板などの鋼製資材はその強靱な剛性や
優れた施工性によって土木施工の基礎となっている。
こうした資材の性能をさらに引出した工法が
「セル工法」や「ジャケット工法」だ。
港湾構造物の本体として鋼製資材を活用する工法を紹介しよう。

急速施工に適した「セル工法」 

 セル工法とは、円弧状に組立てた鋼矢板を海底に並べるように打込み、巨大な壁を構成することで各種港湾構造物を築造する工法だ。主に「鋼矢板セル工法」と「鋼板セル工法」に大別される。護岸、ドルフィン、係船岸などの港湾構造物本体を築造する工法として採用されている。
 「鋼矢板セル工法」は直線型の鋼矢板を円形あるいは円弧状に組立ててプレハブ化されたセル殻を形成する。このセル殻を起重機船の吊具に取付けられた複数のバイブロハンマーの特殊油圧ジャッキでつかみ、回転防止、振れ止め用ロープを施して吊上げ、設置場所まで曳航する。打設現場にあらかじめ打込まれたアンカーによって打設方向を固定して、バイブロハンマーを対角線上に順次駆動させながらセル殻を一挙に海底地盤に打込んでいく。この際、セルの鉛直性、ねじれ、回転などを厳重にチェックすることが重要なポイントとなる。事前にマーキングした目盛りにより打ち下がり状態を確認しながら海底面の必要深度まで貫入させる。
 「鋼板セル工法」はあらかじめ工場で加工された鋼板を、現場の作業施設で溶接して組立てたセルを用いる。比較的強固な海底地盤にフーチングを付けて設置する「置き鋼板セル」と、軟らかい地盤に打込み、根入れ(地中に打込まれた部分)の効果によって安定を図る「根入れ式鋼板セル」に分類される。打設されたセルはそのままでは内部が空洞の大口径の鋼杭に過ぎない。そのためしっかりと海底面に据え置くために、セル殻の中に土砂や砕石、コンクリート等を用いて中詰を施す。セルに底板がある場合はこの中詰材料の重量によって、また底板が無い場合は中詰材料と構造物壁面との摩擦抵抗によってしっかりと安定させる。セルは中詰が完了するまでは波に対する安定が弱いため、沈設後直ちに中詰を施工できるように計画段階から配慮することが必要だ。
 セルは円形の形状をしているため並べても全面に円弧状の凹凸部ができてしまうため、セルとセルの間にはアーク部を施工する。アーク部はセルと同様の手順で施工される。両側のセル殻の外側に円弧状のアーク矢板をバイブロハンマーで打込んだあとその中に中詰を施す。セル殻の構造はこうした円形セルをアークで結んだ形状が一般的だが、真上から見ると太鼓型やクローバー型の形状をしたセルも開発されている。
 セル工法の特徴として第一に上げられるのは施工の速さだ。プレハブ化することによって現場における必要最小限の加工作業も簡易で、大型機械を使用した一括施工が可能なため海上での作業時間も短時間で済む。さらに現場の気象、海象条件の変化にも素早く対応できることから全体の工期も短縮できる。こうした急速施工と合わせて、事前の地盤改良も不要あるいは簡易な施工で済むことからトータルコストの低減も期待できる。また海底の支持層に達するまで確実に根入れすることにより安定性も確保。セルとアーク部の中詰、継手処理を行うことによって非常に高い遮水性を得ることができることから海上に建設される廃棄物処分場の護岸としても十分にその機能を果たすことができる。

鋼板セル工法 ジャケット工法
■鋼板セルの設置 ■ジャケットの据付
(根入れ式鋼板セル協会)
(写真:中日映画社)
   
■セル工法のイメージ図
(根入れ式鋼板セル)
■ジャケットの構造図(名古屋港飛島ふ頭南側大水深コンテナバースイメージ)
(根入れ式鋼板セル協会)
(国土交通省 中部地方整備局
名古屋港湾・空港整備事務所)

水平剛性に優れた「ジャケット工法」

 「ジャケット工法」は主として海底油田建設の工法として開発されてきた。石油や天然ガスの埋蔵が確認されると、そうした資源を採取、生産、輸送するための海上プラットフォームが必要となる。海象、気象条件に関わらず、早期かつ経済的に固定された海上施設を建造することを目的として生まれた工法が「ジャケット工法」だ。その優れた施工性から現在では桟橋や作業用固定足場、さらに石油やガスの入出荷用シーバースなどの港湾施設に活用されている。ジャケットの主要な部分を工場で製作し海上輸送によって施工場所に運搬、そのジャケットをあらかじめ施工された基礎杭と一体化させる工法だ。洋服を羽織らせる要領で杭に覆い被らせ施工することから「ジャケット工法」と命名された。
 ジャケット型構造物は3つの構造体によって構成されている。必要な施設や設備を備えたデッキ部分の上部構造、その上部構造の受ける重量や風力を海中で支える脚柱のジャケット部、海底地盤中で全体の重量を支持する基礎杭部である。
 ジャケットは直線状の鋼材を三角形に接合して組合わせた鋼管トラス構造になっている。製作工場の岸壁から完成したジャケットをバージ船に移動し、設置場所まで曳航した後、大型起重機船のクレーンで吊上げて杭に被せるように設置する。大型のブロック単位で効率良く一括施工することができる。
 ジャケットの設置方法は、鋼管杭を打設した後にジャケットを据付けて杭と連結させる「杭先行法」と、仮受杭の上にジャケットを据付けてから鋼管杭を打込む「ジャケット先行法」に大別される。杭先行法はジャケットを後から杭に差し込むことになるため、杭を正確に施工しておくことが重要なポイントだ。ジャケット本体の脚柱である鋼管をガイドとして基礎となる支持杭を打込むジャケット先行法では、斜杭構造にも対応でき、浅海域から大水深の現場まで広範囲で採用されている。事前に打設される仮杭はジャケットを着底させずに海上で本体を支持する役割を果たし、支持杭が打込まれた後に撤去される。ジャケットの据付けが完了したら、デッキ部が施工され、その上に海上施設が建設される。
 ジャケットは陸上において本体を製作するので海象条件に左右されることも無く、施工管理や工程の調整もしやすい。三角形をベースとしたトラス構造は剛性が高く、エネルギー吸収量も大きく耐震性に優れている。地震時の水平方向の力に対して抵抗力が大きいことから上部工を施したジャケットはそのまま岸壁や桟橋の本体として活用されている。
 名古屋港飛島ふ頭の日本最大級のコンテナバース整備事業においてもこのジャケット工法が展開されている。−16mに及ぶ大水深国際海上コンテナターミナルだ。ジャケット式の桟橋本体の背後には鋼管矢板による土留も施され、M7.2の地震にも耐える強固な構造となった。中部地方の物流を支える名古屋港に、ジャケット工法による国内有数の耐震強化コンテナ岸壁が供用される日も近い。

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